2章 認知心理学の研究方法
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2-1. 研究方法
2-1-1. 心理学の研究方法
認知心理学の主要な研究方法
中心的な役割
2-1-2. 行動研究
他者の行動を調べる研究
因果関係を想定し、原因を実験者が操作し、結果の変化を調べる
結果: 参加者(participant, もしくは被験者subject)の行動
働きかけはせずに自然な行動を観察する
因果関係を究明しようとする場合もあるが、行動についての情報を得ることだけを目的とする場合もある。
観察・調査・検査・面接などの方法がある
2-1-3. コンピュータ・シミュレーション(computer simulation)
コンピュータで人間を真似てみるという研究方法
行動研究に基づいて、理論的なモデルを作る
コンピュータで実行し、行動研究のデータと比較
モデルの動作を正確に見極めるためには非常に有効な方法
人工知能(artificial intelligence)とも密接 2-1-4. 脳研究
脳に損傷を負った患者を調べる方法
神経心理学(neuropsychology)という分野で行われてきた 健常な人の脳活動を調べる方法
脳の電気的な活動を調べる方法
表面で計測するため、正確にどこが活動しているのか見極めるのが難しい
脳の血流を調べる方法
認知神経科学(cognitive neuroscience) 活動している部分に集まる血流を調べる方法
脳活動をどれだけ正確に反映しているのか、ややはっきりしない
脳研究でも行動研究が重要な役割を受け持つ
2-2. イメージとその研究
2-2-1. イメージ
物理現象は感覚器官で捉えることができる
客観的観察が可能
思い浮かべている本人にはたしかに見えているような気がする
客観的な観察が不可能
2-2-2. 内観法
イメージを言葉で詳しく描写する
内観法(introspective method): 意識によって自分の心を内省し、言葉で報告するという研究方法
内観心理学(introspective psychology) 意識心理学(consciousness psychology) 内観法はかなり難しい作業であり、訓練が必要
内観法は訓練を積んだ心理学者が行った
思考には必ずイメージが伴う vs イメージを伴わない思考がある
それぞれの陣営が内観法によって立証しようとした。
内観法は先入観や願望によって左右されることがわかった。
科学的な研究方法としてはふさわしくないとみなされるようになっていった。
2-2-3. 行動主義
20世紀初めには行動主義(behaviorism)の心理学が台頭 行動(刺戟stimulusと反応response)だけを研究の対象
誰もが客観的に観察可能
意識やイメージといった内部プロセスは研究対象から外された
2-3. 新しいイメージ研究
2-3-1. イメージ研究の復興
1960年代に認知心理学が勃興、イメージの研究も復活 イメージの研究方法も行動主義心理学を継承
内部プロセスの性質を積極的に推定しようとする
知識の表象には言語とイメージの2種類がある
イメージ: 実物に似ている
言葉: 実物に似ていない
立証のために記憶実験。
対連合学習: 事前に単語の組み合わせを覚え、刺戟語に対する反応語を答える。
イメージ群 > 暗記群
ペイヴィオの解釈
記憶表象
暗記群: 言語
イメージ群: 言語 + イメージ
イメージという表象システムが存在する
ペイヴィオ説への批判: 「イメージ=言語」論
言語的な想起手がかり
暗記群: 少ない
イメージ群: 多い
言語の表象システムしかないと仮定しても説明できる
ペイヴィオの方法の限界
ペイヴィオの実験が示したのは記憶成績の向上のみ
イメージと言語どちらでも説明可能
2-3-2. イメージ論争
ペイヴィオ: イメージ=心の中の絵のようなもの
ピリシン: イメージ=記号列
認知心理学の研究方法が次第に洗練されていった
2-3-3. イメージの新しい研究方法
イメージを使う課題(刺戟)とその課題に対する答(反応)との関係からイメージの性質を推定する
課題: イメージを使う課題でなければならない。
研究者が自分でその課題を解いてみて、イメージを使う課題であることを内観によって確認する
言葉を使ったのでは解決できない、解決が難しい課題であることは特に注意を払って確認する
他の研究者たちが実験参加者がイメージを使わずに解答した可能性はないか調べる。
自分の内観や実験データの分析結果などに基づいて調査
可能性がある場合は課題を改良するか別の課題を考案する
イメージの特定の性質を調べるために複数の子となった課題を使って実験を行い、それらの実験がみな同じ結論に到達すれば、イメージが使われたことはより確実になる。
反応: できるだけ単純な反応だけを求める
イメージは内観によってしか捉えられないが、その内観は信頼できない
期待や願望が入り込む余地を狭める
指標:正答率と反応時間
反応時間(RT: response timeまたはreaction time): 感覚入力→反応出力の時間 複雑な情報処理→長い反応時間
反応時間の分析→情報処理の推定
2-4. イメージ走査の実験
2つの図形の角度差が大きいほど平均反応時間が長い
片方の図形のイメージを作る
イメージを等速で回転
もう1方の図形と同じ方向になったら停止
もう1方の図形と回転したイメージを比較
「イメージは回転することができる」
内観によらずに立証
2-4-1. コスリンの実験
地図の再現実験
二点間の距離が長くなるほど反応時間もほぼ比例して長くなるという結果
「イメージは実物の絵のような空間的な性質を持っていることが明らかになった」と主張
「黒点が飛んでいくところを想像してください」と言った場合は確かに比例関係が現れた
「第2の地点が地図に合ったかあどうかがわかったらすぐにボタンを押してください」といった場合
反応時間はほぼ一定で、ずっと短かった
黒点を移動させた方法との差分=余分な時間で被験者は何をしていたか?
ピリシン: イメージの性質ではなく、物理的な世界についての知識を反映しているに過ぎない
コスリンの実験の欠点
課題:イメージを使わないほうが容易
「できるだけ早く」という要求をしなかった
心的回転実験では
イメージの使用: 不可欠
反応時間の測定: 極限状態(できるだけ速く、正確に)
教訓: 反応時間を測定する研究が満たすべき条件
課題: 調べたい心理プロセス
迅速な反応に不可欠なもの
極限状態で反応
できるだけ速く、正確に
2-4-2. 改良された実験
イメージ走査実験から反応時間を測る実験では反応は「できるだけ速く、できるだけ正確に」という極限状態で行う必要がある
改良されたイメージ走査実験
枠内の4つの点を覚え、消えた後に矢印が提示された方向にあればボタンを押す。
この実験はイメージ表象の性質を反映しているものとかなり確実に推定することができる。
点があったかを正確に判断して、できるだけすばやくボタンを押す=極限状況
点は消えており、点の位置は言葉では正確に記述することはできないため、イメージを使わなければならない
実験結果は本質的にはコスリンの実験の結果と同じものになった
矢印の先端と点の間の距離が長くなるほど反応時間も長くなった
イメージ表象は絵のような空間的性質を備えている